問題と解答・解説(臨床心理士資格試験対策コース)

ここでは、過去に公表されている問題を基に、解説を提示します。
解説は、「解答の根拠」となる記述を参考書から転載しています。

 

問題①<基礎心理学>
12-1

次の文章の空欄〔A B C D〕にあてはまる語句の組み合わせとして最も適切なものを、下のa~eの中から一つ選びなさい。

心理学の理論構成の際、利用される定義には、〔 A 〕、対位的定義、内包的定義などがある。Aは、アメリカの行動主義心理学者に重用されているが、対位的定義は〔 B 〕のLewin,K.の理論構成などで利用されている。
それまでの心理学では、〔 C 〕によって概念を定義するのに対して、Aは具体的な操作によって定義するのが特徴である。しかし、このような個々の操作で定義すると、僅かな操作の違いによって概念が異なるものとなり、その〔 D 〕が失われるのではないか、説明が循環的になるのではないか、という批判がある。

A            B            C           D 
a.外示的定義    集団力学派        客観的経験      特殊性
b.操作的定義    ゲシュタルト学派    内省的経験      一般性
c.外示的定義    新行動主義学派    客観的経験      一般性
d.具体的定義    新行動主義学派    内省的経験      特殊性
e.操作的定義    ゲシュタルト学派    客観的経験      特殊性

(出典:財団法人 日本臨床心理士資格認定協会 監修 『臨床心理士資格試験問題集』 誠信書房)

 

解答と解説①
12-1

ABCDそれぞれの空欄に適当な用語を選択肢の中から穴埋めする問題です。
Aは、操作的定義が入ります。操作的定義とは、Bridgmanによって提唱された概念です。
少し長くなりますが操作的定義の説明に関する記述を引用します。

「ワトソンの行動主義は自然科学としての心理学を目指したものであった。
そして常識的な科学観では、一般に科学は客観的に観察できる対象を取り扱うものであるから、観察可能な筋肉や腺の活動を要素とする行動を心理学の対象とすべきであって、客観的観察の不可能な意識は科学の対象とはなりえない。
したがって心理学を科学とするためには、意識を心理学の対象から排除すべきであるというのがワトソンの主張の根幹であった。
しかし、このような常識的科学観を否定し、客観的科学概念の基礎を与える考え方が物理学者のブリッジマン(P.W.Bridgman、1882-1961)によって提出されたのである。
彼によれば、科学の概念は測定といった具体的操作によって定義されるべきであって、対象自体の特性によって定められてはならない。
たとえば、長さの概念は長さを測定する操作によってきまる。
したがって、同じ長さでもそれを測定する操作が異なれば違った概念であるから、それらの違った概念を結びつける別の操作がなければならない。
確かめるべき具体的操作のない概念は無意味である」
(出典:今田寛・賀集寛・宮田洋共編 『心理学の基礎』 培風館 p.15)

Bは、対位的定義を知らなくても、Lewin,K.がゲシュタルト心理学の研究者であることを知っていれば解けます。

Cは、「それまでの心理学」が「どのように概念を定義してきた」か、を問うています。
「それまでの心理学」とは操作的定義が提唱される前、つまり、ヴント以降ワトソンの行動主義までを指していると思われます。
ヴント以降、1つの学問として独立した心理学は、科学性・客観性を追及するために、ヴントは意識(内省的経験)、ワトソンは行動(客観的経験)を研究対象としました。
Aの操作的定義は、客観的経験のみならず、主観的経験である内省的経験であっても、概念を具体的な操作で定義することにより、概念の客観性を追及できるという考え方であり、その後、新行動主義がこの操作的定義を取り入れ、研究を進めていきました。
つまり、現時点では、「それまでの心理学」が「いつまでの心理学」を指しているのかが不明なため、Cは保留です。

Dは、操作的定義が「概念を具体的な操作で定義すること」であるため、概念の一般化を目的とした考え方です。つまり、Dには一般性が入ります。

「しかし、別個の操作は別個の概念になるのか、概念の一般化の具体的な基準の作成や、操作と理論的構成との関係などが操作主義の問題として残されている」
(嶋田博行(1999) 『操作主義』 中島義明 他偏 『心理学辞典』 有斐閣 p.531)

以上より、ABDが解答可能であり、それに伴い、Cには内省的経験が入ることが判明します。解答はbになります。

Bridgmanの操作的定義は、上述の参考書・辞書の中では、「心理学辞典」(有斐閣)に記載されているのみであって、他の参考書・辞書では、「操作的定義」の説明はあったとしても、問題文の空欄に当てはめるだけの情報が記載されていない参考書もあります。
つまり、このような情報の入手が困難な概念の場合、上述の参考書・辞書以外にも何冊もの本を開き、どこに操作的定義の情報が記載されているかを探したとしても、なかなか必要な情報にたどり着けず、手持ちの参考書等では調べきれないことも生じることがあります。

 

問題②<事例問題>
3-35/7-89

ある大学生のクライエントが試験に失敗、全くやる気を失っているという訴えで面接を始めた。
入手し得るデータに身体的異常はなく、神経症レベルの障害を示している。
かつての自分には活気があったということは認められるが、現在の自分については一方的に否定的で、全く取りえのない人間という見方をしている。
しかし、「疲れやすくなった。何をやってもすぐ飽きてしまう。根気がなくなった。集中力がなくなって、本を読んでも、まとまった意味がつかめない」と繰り返し訴える。
面接者としての対応のうち、次の記述の中から最も適切なものを二つ選びなさい。

A.共感的に相手の気持ちを受けとめる。
B.具体的な本人の生活の仕方について明確化し、これからどのような方向で面接をすすめるのか話し合いをする。
C.自分自身に悲観的な態度を取りすぎていると明確に指摘する。
D.逆説的に、そういうことは自己成長の過程で当然であることだから、もっと徹底的に悩むとよいと指示する。

(出典:財団法人 日本臨床心理士資格認定協会 監修 『臨床心理士資格試験問題集』 誠信書房)

 

解答と解説②
3-35/7-89

クライエントと一緒に問題に援助していく姿勢、受容・共感的な態度でクライエントに関わっていく姿勢が身に付いているかが問われている。この2つの姿勢は他の問題でも問われることが多いので、しっかり押さえておいて下さい。
A.○→共感的な対応は○。

「心の専門家として、クライエントの人権と福祉に反することは、いかなる場合にも行ってはならない。
このことを倫理義務といっている。
これには、専門的関係のなかで知り得たクライエントの秘密をみだりに他人に明かしてはならない守秘義務、クライエントを他の目的に利用してはならない義務などが入る。
クライエントに対しては、常に共感的態度をもって接しなければならない。」
(出典:河合隼雄(1991) 『心理臨床学研究』 第9巻 特別号)

B.○→面接の見通しを話し合うことで、クライエントと治療契約を結ぶ。

「受理面接でクライエントの問題がある程度明確になり、心理面接を続けることがクライエントにとって役に立つことが予想され、クライエントも面接者の『見立て』に同意すると、援助目標が設定される」
(出典:鑪幹八郎・名島潤慈編著(2000) 『新版 心理臨床家の手引』 誠信書房)

「セラピストはクライエントがどのような精神状態や問題状況にあるかを調べ、見立てを行い、クライエントとどのような心理療法を、どのような状況と条件で行うかを話し合い、約束事を決め、治療契約が結ばれ、これを基にして心理療法が始まる」
(出典:東山紘久(1999) 『治療構造』 氏原寛 他編 『カウンセリング辞典』 ミネルヴァ書房 p.432)

C.×→悲観的になっていることはクライエントも気付いている。悲観的な態度を指摘することは×。

D.×→クライエントと作業同盟を築く姿勢に欠ける。Bとは反対の対応にもなり×。

特に、事例問題は解答の根拠となる部分が見出しにくく、大学院時代の実習、研修を通じて体得した「臨床経験」を頼りに解答に望む人も多いようです。
事例問題においても、基礎心理学をはじめとした知識を問う問題同様、一問一問解答の根拠となる部分を参考書等から見出すことが必要です。
しかし、事例問題の場合は特に、解答の根拠となる部分を参考書から導くための材料が少なく、また、執筆者によって記述の内容が異なるため、根拠となる部分を見出すことが知識を問う問題以上に困難な作業になります。

以上、基礎心理学、事例問題から各一問ずつ解説のサンプルを提示しました。